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はなかみろうにん
濞かみ浪人
吉川 英治
「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 页
その打明け話によると。
織田家の方では、其後も、少しも手を緩めずに、婚儀のはなしを進めていた。蠣浜橋での乱暴を、織田家の方から、かえって人を介して、謝罪してくるし、又、多年積もっている小山田の親戚先の負債まで整理してくれるやらで、さしもの頑固な一閑も、すっかり我を折ってしまい、先頃、和解と結納が一緒に済んで、藩庁へも、婚儀の届出がもう差し出されているというのである。
『――数右衛門、これでもおぬしは、お千賀どのを、妻に持つ気か。持てるとまだ思ってるか』
数右衛門は、腕拱みした儘、自分の頭を、畳の中へめり入れるように、俯向き込んでいたが、やがて少し醒めかけた顔を持ち上げると、
『何、持てないとは思わない』
と、答えた。
『え?』
呆っ気にとられた友達の顔を下に措いて、彼は起ち上っていた。
『まだ、分らぬ。まだ、お千賀どのの、心というものがござる。その心を、誰が知ろうぞや』
彼は先へ出て行った。残った連中が、後から出て行って、帰りがけに数右衛門の長屋の戸を隙見してみると、数右衛門は蒲団の中にもぐって、高い鼾をかいていた。
『――あいつは倖せ者だよ、まだ疑わないのだ。