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はなかみろうにん
濞かみ浪人
吉川 英治
「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 页
『何が不埓』
『その無恥、もうゆるさん』
『お千賀どのに、胸の底を、問いに来たのじゃ。お千賀どのを、これへ呼んでくだされい』
『ば、ばかっ!』
庄左衛門は、声のつぶれるほど、怒って呶鳴った。
『あれ程、いつかも申したのに、まだ性懲もなく、妹の後を追い廻すか。犬のようなやつだ、武士か、それでも』
数右衛門の曾つて人に汚される事をゆるさないものに、その口汚い唾が、ぴりっと触れたらしかった。
『何ッ、もう一言申してみい』
蒼白の顔から、髪がさっと立った。
『犬のようだと云ったのだ。小山田家には、犬にくれるような娘はおらぬ』
『云ったなっ』
数右衛門は、相手の槍を引ッ奪くった。そして、庄左衛門の体を振り飛ばすように振ッて、
『なんだ、犬に獲物を奪られて、それでも武士か』
力まかせに、槍の柄で、相手の背ぼねをたたき伸めし、その槍を、お千賀の部屋の中へ、ぶんと抛り込んだ。
『わかった。売女のように、金や権門に買われてゆく女だったのか。……ベッ、ベッ、もういい、胸が透いた』
一目散に、その儘、数右衛門は藩邸の長屋へ帰って来た。足を洗って寝床の中へ潜り込んでいた。すると軈て、
『卑怯者っ、怖いのか』