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はなかみろうにん

濞かみ浪人

吉川 英治

「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 页

青空文庫

宵の上汐

『そうも云えるのう。……何じゃ、まだ歇まぬようではないか。理非はいずれにもせい、藩邸の内で、双方とも不作法千万、見てまいれ』

宵の上汐

聞き役は、源吾が聞き取った。双方の申し分はそのまま、源吾から内匠頭の耳へとどいた。

(……困った問題が)

という顔は、裁決を待つあいだの、源吾の面にだけあるもので、内匠頭は、さほどな態でもない。

脇息に倚って、しばらく、沈吟はしていたが――。

何っ方も、藩士である、可愛い家来なのだ、傷つけたくない。そういう気色は見られる。

『――こう沙汰せい』

裁決はついた。

内匠頭の旨をうけると、源吾は、君意を奉じて、てきぱきと申し渡した。

『きょうは、御息女が輿入の当日であろうが。遠慮のう、華典の儀、運ばれるがよい。庄左衛門にも、妹の祝日とて、特に何らのお咎めはない』

一閑は、やや不服な色を、眉にあらわした。庄左衛門にも特にお咎めなし――と云う沙汰は、庄左衛門に何か科あるように耳へひびいたからである。

だが――親の慾目でも、それへ触れてゆくのは、後ろめたかった。自分の知らない不埓がありそうにも思えるのである。――然し老人のくせで、何もいわずに引き退がれなかった。