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はなかみろうにん

濞かみ浪人

吉川 英治

「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 页

青空文庫

で、一局崩れると、

『不破氏』

と、清右衛門が振向いた。

『――貴公、だいぶやるようだな。一戦、試みよう。坐んなさい』

『いやあ、拙者あ、碁など一向に知らん』

『でも、覗いていたではないか』

『退屈だからで』

『然し――何も分らない者が、そう長く熱心に見ていられる訳のものではない』

『拙者が見ていたのは、つい襟元から盤の上に取り落した虱が、誰の所へ歩いて行くかと、それを楽しみに見ていたのでござる』

呆れた眼と、憤って青くなった顔とが――彼のうしろ姿を見送った。数右衛門はぶらりと御用部屋の外へ出て、欠伸をしていた。

脇玄関の小廊下に、明るい秋の日が映していた。萩垣根の下に、萩の花を浴びて、この頃生れた犬の子が白い親犬に戯れている。

『小僧、小僧……』

数右衛門は、自分の手を、犬の子に噛ませて、戯れていた。すると今、門の方へ出て行こうとした藩士の一人が、足を止めて、退屈そうな数右衛門を振向いていたが、眼を見合すと話しかけた。

『お閑か、不破殿』

『さればで……』と、彼も自分の持て余している体に気づいて、苦笑した。

『どうですか、御一緒にそこら迄』

『お供いたそう』

数右衛門はすぐ草履を穿いた。