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はいかぐら
灰神楽
江戸川 乱歩
「大衆文藝」1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,262 字 · 27 页
ネ、君はそうは思わないかい」
二郎は返事をしようともしなかった。さっきからの姿勢を少しもくずさないで、じっと一つ所を見つめていた。彼の顔には、恐しい苦悶の色が現れていた。
「ところで、二郎君」庄太郎はここぞと、取って置きの質問を発した「その時、塀を越したボールを打ったのは、一体誰なんだい。君の友達かい。その男は、考えて見れば罪の深いことをしたものだね」
二郎はそれでも答えなかった。見ると彼の大きく見張った目尻から、ギラギラと涙が湧き上っていた。
「だが君、何もそう心配することはないよ」庄太郎はもうこれで十分だと思った「若し僕の考えが当っていたとしても、それは過失に過ぎないのだ。ひょっとして、あのボールを打ったのが君自身であったところが、それはどうも仕方のないことだ。決してその人が兄さんを殺した訳ではない。アア僕はつまらないことを云い出したね。君、気を悪くしてはいけないよ。じゃね、僕はこれから下へ行って姉さんにお悔やみを云って来るから、もう君は何も考えないことにしたまえ」
そして彼は、嘗つては無様に辷り落ちたあの梯子段を、意気揚々と下って行くのであった。