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はいかぐら

灰神楽

江戸川 乱歩

「大衆文藝」1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,262 字 · 27 页

青空文庫

争いは段々烈しくなって行った。問題が焦点をそれていることが、その代りに、野卑な金銭上の事柄にまで、こうしていがみ合わなければならぬと云う意識が、一層二人を耐らなくした。併し、若しその時、一郎の机の上にあの拳銃が出ていなかったら、まさかこんなことにもならなかったであろうが、悪いことには、一郎は日頃から銃器類に興味を持っていて、丁度当時、その附近に屡々強盗沙汰があったものだから、護身の意味で弾丸まで込めて、机の上に置いていたのである。それを庄太郎が手に取って、つい相手を撃ち殺して了ったのだ。

それにしても、どうしてあの拳銃を取ったか、そして、引金に指をかけたか、庄太郎にはそのきっかけが、少しも思い出せないのだった。ふだんの庄太郎であったら、如何に口論をすればとて、相手を撃ち殺そうなどとは、考えさえもしなかったであろう。時のはずみと云うか、魔がさしたというか、殆ど常識では判断も出来ない様な事件である。

だが、庄太郎が人殺しだということは、最早どうすることも出来ない事実であった。この上はいさぎよく自首して出るか、それとも、あくまでそ知らぬ振りをしているか、二つの方法しかない。