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てん

点

小川 未明

「新天地」1909(明治42)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,063 字 · 17 页

青空文庫

――険しい眼――輝く眸――物凄い顔――是等の過去のイメージが全く心の目から取れないのにかかる柔和な、穏かな顔を見ようとは思わなかった。

子供の胸の中は、一時に温かく血潮が廻った。子供の眼にも希望の輝きが閃めいた。

「先生!」と呼びかけて、その声が情に震えるのを禁じ得なかった。

「人生とは何んでしょう。」ときっぱりと言い放って、胸の熱血の騒ぐのを堪えられないように身を戦わして、翁の前に近づいた。

「よく聞いた!」と翁はいった。この時翁の白い姿は、子供の目に――神秘の金色の後光の中に包まれて立っているように尊く映じた。

家の裡が薄暗くなるまで、外の吹雪は募った。さらさらといって粉雪の風に煽られて、硝子窓に砕ける音がした。時計の刻む音は、冷かな空気に伝わって、死したる天地の胸に刻み込むようだ。

翁は、高く壁に吊された黒板の前に立った。眤と真黒く拭い清められた板を見上て、やがてそれを指して子供を顧みた。……黒板の下の溝には白墨が二本置かれてある。

「あれに、私がいう数程点を書くんだ……。」といった。

子供は翁に命ぜられたまま黒板の前に進んだ。けれど子供の丈は手を伸しても爪立をしてもその黒板の面までは届かなかった。