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かたおなみ

片男波

小栗 風葉

「文藝倶樂部 第二巻第九編臨時増刊 海嘯義捐小説」博文館、1896(明治29)年7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,792 字 · 6 页

青空文庫

」

断然とお照の言消したる時、遠く小銃のようなる音の何処ともなく聞えて、そが響にや微に大地の震うを覚えぬ。

折から月は全く西の端に落ちて、水や天、黒白も分かぬ沖の方に、さながら砂塵のごとき赭土色のもうもうと立ち迷うを見たり。されど仙太は只管こなたに心を奪われて、そを怪しと考うる遑もなかりき。

「諦めた! とてもこの世じゃどうする事も出来ねえと諦めたから、お照様、お前死んでからはきっと、きっと!」

と反復しつつ、しっかと女の肩に手を懸けて、

「きっと! 死んでからは俺にの。え、お照様、きっとだよ、え、きっと?」

応答を迫られて、ようようお照は男の顔を見挙げて、何やらむ言出てんとする途端、たちまち大地のゆらゆらと動出せしに、あれ! と叫びて思わず仙太の体に縋りも着かせず、さながら百雷一時に落つる如き響とともに、闇を衝いて鼕と押寄せたる千丈の大濤!

* * * * *

乾坤漠々、唯墨を流したらんようなる闇の中に、とうとうたる濁浪天を摩して、人も、獣も、家も、樹も、有情非情の差別なく、世界の所有物はことごとく水に漂いて、叫喚地獄の大苦患もかくや、子は親を助くるの暇なく、夫は妻を救うの道なく、子を捨て、夫を見殺しに、唯身一つをさえ生きかねて、黒白も分かぬ間に悲鳴を揚げて哭叫ぶが中に、わずかに一枚の戸板に乗りて、いずれ