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ぎゅうにゅうとうま

牛乳と馬

豊島 与志雄

「思索」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页

青空文庫

彼――とはこれから言いにくいから、小野田さんと言うことにしよう――小野田さんは約束を守った。一日おきに、午前中、わたしの家に馬を駆けさしてきて、牧場前の茶店からの牛乳を届けてくれた。お母さまがいくら勧めても、決して家の中にあがることはなく、お茶一杯飲むこともなかった。馬上の牛乳配達、とわたしは冗談に言った。

ところが、ふしぎなことに、その馬上の牛乳配達のため、わたしたちの生活気分が次第に乱されてきたのである。

わたしは数日後、自分の楽しみの一つが無くなったのに気付いた。牧場前の茶店は、農家風のしっかりした家ではあったが、店としては縁台と上り框だけで、ほんの掛茶屋にすぎないし、ふだん、家の人たちは牧場に仕事に出ていて、お婆さんが留守をしてるきりである。わたしはそこで、渋茶をすすりながら、お婆さんからいろんな話を聞くのが、楽しかった。また、そこまでの往き帰り秋草を眺めたり、小さな林をぬけたり、清い川底を覗いたりするのも、楽しかった。一升瓶を下げて歩くことなんか、大したことではない。いえ、手ぶらで、当もなく散歩するなんか、却ってつまらないのだ。小野田さんのおせっかいのため、わたしは楽しみを奪われてしまって、あまり外にも出なくなった。