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ねこはち

猫八

岩野 泡鳴

「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页

青空文庫

と、主人は言った。

「しかしわたくしならそんなことは」と、彼は自分をそんなばかでもないと弁護するように熱心じみたが、主人ばかりでなく皆も耳をかたむけてくれなかった。

「動物園に行って虎のじッとしているところや欠伸をしたのを見ただけでも、彼はとにかく色男の気持ちよりも虎の気持ちをよく分ったと思って帰宅した。いよいよ初日が来て、縫いぐるみの虎が舞台に出て欠伸をすると、それだけでも大向うから深井、深井! と呼ぶ声がかかったので、すくなからず得意になった。そしてその幕切れのところで劇の女主人公に躍りかかると、大向うを初めとして諸見物の大喝采を得た」

「人をばかにしているじゃアありませんか?」これは初めて口に出すずッと若い人の言葉であった。

「そりゃ人をばかにしたもの、さ」と、天神さまも今度は笑いながら口出しをした。

「………」猫八もまた何か言ってみたくなったほど高座で受けるお客からの待遇に対する不平が浮んでいた。「そりゃア、わたくしから見ますと、つまらないことを嬉しがる見物人の事をばかにしているのでごぜいまして、たぶんその俳優の本人には同情していてくれてるのでげしょう、な――見物なんて、寄席のお客も同様でげすから」