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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

04 一九三七年(昭和十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页

青空文庫

犬もいない。

家の方は、S(略称「バラさん」という)父、寿江、私とお馴染の看護婦のお母さんが来ていてくれるので私は本当に安心していられる。

こんどはまわりがすこし心配しはじめてそういう順立てもしてくれたのです。

お工合はどうですかしら。この間の本はすこしは役に立つでしょうか。どうしても腸の疾患だけを特に一冊にとりまとめたのはありません。あの本は南江堂で買ったがその前日丸善(神田)へ行ったら医書のところに『人間は皮膚を変える』というヤセンスキーの小説、黒田辰男訳が立ててあって、笑いを押えることが出来なかった。何たる皮肉でしょう! この作者の現実と人間の進歩の関係を見ることに於ての誤りは皮膚だけかえるところにあると批評されているが、皮膚を代えるのは生理的現象であるとして丸善の小僧氏は医学書の間に入れてある。実に善哉善哉である。近来の傑作です。こちらで私は全く神経の休養とその間にゆっくり仕事をすることを眼目にしているので林町からも誰も来させない。台所の方にずっと留守番をしているおミヤさんという六十四のお婆さんひとり。父が私がここで勉強するためにテーブルを一つ買ってくれた(一九三五年の初冬)。