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りそうのおんな

理想の女

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页

青空文庫

「何を考えていらしたの。」

私はどう答えていいか分らなかった。彼女はまた云った。

「私がはいって来ると喫驚なすったわね。何を考えていらしたの。」

いやに真剣なものを、私は彼女のうちに見て取った。そして、つとめて平静を保とうとした。

「だって突然音も立てないではいって来たんじゃないか。僕は初め幽霊かと思った。喫驚するのは当り前さ。」

彼女は一寸鼻の先で、軽蔑的な笑い方をした。それからまた暫く黙っていた。

「何か用があるのかい。」と私は尋ねた。

「いいえ、何をしていらっしゃるのか一寸見に来たのです。」

然しすぐその後で、彼女は急に顔を引緊めて、真正面から私に向って来た。

「私は今晩こそ、本当のあなたの心をききたいんです。そしてはっきりときまりをつけたいんです。」

「何のきまりをつけるんだ?」と私は平気を装った調子で答えた。彼女は私の言葉には頓着なく、先へ云い進んだ。

「あなたは、私に隠していらっしゃることがあるんでしょう?」

私ももう真剣にならざるを得なかった。卓子の上に両腕を組んで、椅子に坐り直した。

「何を隠してると云うんだ。何にもありはしない。」

「心の中で苦しんでいらっしゃることがあるんでしょう。