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いきているかんばん
生きている看板
小川 未明
「早稲田文学」1927(昭和2)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,965 字 · 6 页
そして、日に、幾度ということなく、戸口を出たり、はいったりしていました。
ある日のこと、町の菓子屋から使いがきて、店の看板を塗り換えるから、ひとつ趣向を凝らして、いいものを描いてくれと頼まれたのです。
その菓子屋というのは、町での老舗でありましたから、女房は喜んで、
「おまえさん、いいものを描いて、評判をとってくださいね。そうすれば、また、ほかの家でも頼みますから……。」と、いいました。
兵蔵は、にやりと笑っただけで、答えませんでした。いよいよ町の菓子屋へ、仕事に出かけてゆくと、
「大将、きれいな女を描いてもらいたいと思うんだが、すてきな、美人を描いてくれないか。」と、菓子屋の番頭がいいました。
「美人ですか?」と、兵蔵は、問い返した。
「ああ、だれでも振り向いて見るようなのをな……。」と、番頭はいいました。
「文字も書くんでしょうね。」
「ああ、字も書かなければ、看板にならないが、まあ、絵のほうに力をいれてもらいたいのだ。」
兵蔵は、しばらく、考えていましたが、黙って、そのまま仕事にとりかかりました。家で、留守をしている女房は、せっかく、夫が仕事にありついたので、どうか、いいものを描いてきてくれればいい、それが人の目に止まって、評判になったら、また、ほかから頼みにくるだろう、そうすれば、いままでのように困ることも