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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

こう云いながら宮川茅野雄は、刀の鍔際をしっかりと抑えて、五寸あまりも鞘ぐるみ抜いて、右手で柄もとを握りしめて、身を斜めにして右足を出して、いつでも抜き打ちの出来るように、居合腰をして首を延ばしたが、じっと前の方を隙かして見た。

漲っている蒼白い月の光を浴びて、宮川茅野雄から五間あまりの彼方に、肥えた長身の三十五六歳の武士が、抜き身をダラリと引っ下げた姿で、こっちを見ながら立っていたが、髪は大束の総髪であった。

と、その武士は落ち着き払った態度で、ゆるゆると茅野雄へ近寄って来たが、

「宮川茅野雄殿と仰せられるか、はじめてお名前を承わってござる。拙者は醍醐弦四郎と申して、身の上の儀はまずまず浪人、ただしいくらかは違いますがな。……いかにも貴殿の仰せられる通りに、拙者、貴殿に怨みはござらぬ。と云え貴殿の仰せられるように、人違いで切ってかかったのでもござらぬ。思うところあって切り付けたのでござる。と云うのは貴殿の運命と、――巫女から買い取られた運命と、拙者の運命とが似ているからでござる」

こう云うとクックッと含み笑いをしたが、

「実は拙者も同じ巫女から、運命を買ったのでございますよ」