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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

こういう危急の場合にも、笑われて見れば気持が悪い。そこで茅野雄は振り返って見た。

丹生川平の郷民達が、遥かの後方に屯していて、茅野雄の方を指さして、笑っているのが見てとれた。

(何故あいつらは笑っているのだ? 何故俺を追っかけて来ないのだ?)

とは云え彼ら丹生川平の、郷民達から云う時には、笑うべきことに相違なかった。

というのは大森林の奥所にあたって、丹生川平があるのであるから。

(あの可哀そうな旅の武士は、自然に一人で俺達の郷へ、惨められるために駆けて行く)

で、指さしをして笑ったのであった。

そういうことを茅野雄は知らない。

で、馬を走らせた。

しかしその時背後の方にあたって、忽然鬨の声がわき起こったので、振り返らざるを得なかった。

何を茅野雄は見たであろう?

丹生川平の郷民達の群へ、一団の人数が襲いかかって、凄まじい戦いを演じている。

白河戸郷の郷民達が、ようやくこの時駈けつけて来て、丹生川平の郷民達へ、殺到したに他ならなかった。

しかし茅野雄その人にとっては、そんな事情は解らなかった。

(この隙に森林の中へ入り、危険から遁れることにしよう)

で、いよいよ馬をあおって、森林の方へ駈けて行ったが、間もなく姿が見えなくなった。