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せいしまんじどもえ
生死卍巴
国枝 史郎
「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页
古沼の岸を巡って越し、灌木の多い境地へ出た。
と、その時人の足音が、ひそやかに二人の背後の方でした。
しかし二人には解らなかった。
不意に浪江が苦しそうに云った。
「申し上げることにいたします。どなたかにお話しいたしませねば、妾良心の苦しさに、息詰まってしまうのでございます。……あの内陣にあるものは、盗んで来た品物でございます。……しかも片輪なのでございます!」
「浪江!」と、その時鋭い声が、いや、幽鬼的の兇暴の声が、背後にあたって響き渡った。
同時に風を切る音がした。
「あれ!」
「伯父上!」
ガラガラガラ!
体は長身、髪は切り下げ、道服めいた衣裳を着た、一人の老人が鉄の杖を、両手で頭上に振り冠り、怒りと憎しみとで顔を燃やし、水銀のようにギラギラと光る、鋭い眼で、一所を睨みながら、あたかも鬼のように立っていた。
外ならぬ宮川覚明であった。
そういう覚明から二間ほど離れた、桧の大木の背後の辺りに、一個の群像が顫えながら、覚明を見詰めて、立っていた。
覚明が背後から鉄の杖で、浪江を撲殺しようとしたのを、早くも気勢で察した茅野雄が、刹那に浪江を引っ抱え、瞬間に飛び退いて難を遁れ、いまだに浪江を引っ抱えたままで、立っているところの姿なのであった。