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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

奇怪と荘厳とを一緒にしたような、妙な気持に圧迫されて、押し黙っているばかりであった。

と、浪江の囁く声がした。

「ご神体は贋物なのでございます。ご覧の通り一方の眼だけが、見ひらかれて鋭く輝いております。でももう一方の眼は潰れております。……父上は開いている一方の眼だけを、手に入れたばかりでございました。その一つの眼を基にして、あのご神体を作ったのでした」

「…………」

茅野雄は返辞をしようともせず、その輝いている一眼へ、恍惚とした眼を注いでいた。

茅野雄は自分の心持が、抑えても抑えても抑え切れないほどに、その一眼を手に入れたいという、慾望に誘惑されるのを感じた。

(あの眼の光に比べては、名誉も身分も財産も、生命までも劣って見える)

茅野雄は深い溜息をしたが、誰かが背後から押したかのように、思わず前へ突き進んだ。

いつか茅野雄は石段を上り、神殿の前に立っていた。

と、茅野雄は腕を延ばしたが、グルグルと神像の首を捲いて、右手で刀の小柄を抜くと、神像の眼をえぐりにかかった。

「あ、茅野雄様!」と恐怖に怯えた、浪江の声が聞こえて来た。しかし夢中の茅野雄の耳には、聞こえようとはしなかった。