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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

「山岳へおいでなさりませ、何か得られるでございましょう」と、そう云った巫女の言葉の、占い通りにはなっていた。

(しかし俺に巫女が占ってくれた「何か」がはたして何であるか、それさえ知ってはいないのだ)

――で、醍醐弦四郎などに、敵対行動を取られるという、そういう理由はないものと、そう思わざるを得なかった。

(そうは思うものの醍醐弦四郎に、現在このように矢文を付けられ、あからさまなる敵対行動を、約束された上からは、用心しなければならないだろう)

で、茅野雄は四方を見た。

六月の山中の美しさは、緑葉と花木とに装われて、類い少なく見事であった。椎の花が咲いている。石斛の花が咲いている。槐の花が咲いている。そうして厚朴の花が咲いている。鹿が断崖の頂きを駆け、鷹が松林で啼いている。鵙が木の枝で叫んでいるかと思うと、鶇が藪でさえずっている。

四方八方険山であって、一所に滝が落ちていた。その滝のまわりを廻りながら、啼いているのは何の鳥であろう? 数十羽群れた岩燕であった。

高山の城下までつづいているはずの、峠路とも云えない細い道は、足の爪先からやまがたをなして、曲がりくねって延びていた。