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たざきそううんとそのこ
田崎草雲とその子
吉川 英治
「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 页
秋草ばかりではない、人影が、そこにみえるのだ。七いろの草は、その人影の裾模様だった。泣いているように、俯向いている。そして、そばには無色の小袖を着た若い侍が、同じように、顔を上げずに、手をついているのだ。
『あっ、格太郎……お房……』
どんどん、どんどんどん。
階下で、その時、誰か激しく戸をたたいている者があった。画に没頭している時は、昼も、戸を閉めておくことがある。
降りて行くと――
『おお、旦那様』
『や、植木屋の松蔵か。……ウーム、分った。お前が、飛脚として、わしの家へ来るからには、格太郎が切腹を報らせに来たにちがいあるまい』
『えっ、どうしてそれを』
『まあよい、状箱のは、遺書か』
『いえ、小川町の御藩邸からで』
江戸にいた頃、草雲に、近づいていた松蔵は、彼の気持を読んで、そういった。遺書といえば、或は、それすら手にとらないかも知れないと思ったのである。
それを持って、草雲は、黙って二階へ上って行った。いつ迄も物音もしない――
上れとも、いわれないので、松蔵がぼんやりとそこに腰かけていると、あわただしい、跫音をさせて、さっき、辻便所で会った安田と、湯沢の二人が、息を喘いで戻って来た。