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きけいのてんにょ

畸形の天女

江戸川 乱歩

「宝石 第八巻第十一号」1953(昭和28)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,893 字 · 35 页

青空文庫

「おれは、こいつに殺されるんじゃないかな」松永はふとそんなことを考えていた。

「おじさん。わかったね、おれのきもち。たのんだよ。ほんとにたのんだよ」

青年は、ねばっこい言いかたで、そういうと、プイと、うしろ向きになって、そのまま立ち去って行った。

青年の少し猫背になった黒い影が、町角をまがると、松永は急ぎ足にそこまで行って、物影からのぞいて見た。青年はふりむきもせず、スタスタと歩いて行く。そして、間もなく、また向こうの角をまがってしまった。

いやあな後味が残った。今夜はふみ子に逢うのをやめて、このまま帰ってしまおうかとさえ考えた。しかし、ふみ子が、空き家の中で待ちこがれていることを思うと、帰る決心はつかなかった。おれだって、さめざめと泣きたいほど好きなんだ。あんなヨタモンにまけて、スゴスゴ帰ることがあるもんかと思った。

空き家の前までくると、青年がつけてきたのではないかと、よくあたりを見廻したが、そのけはいもなかった。

半びらきの板戸のすきまから、手さぐりではいって行くと「松永さん?」と、少女とも思えない淫蕩な低い声が、奥の方からきこえてきた。

双方から手さぐりで近づき、しっかりと抱き合った。