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ぎわく

疑惑

江戸川 乱歩

「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年9月15日、25日、10月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,308 字 · 37 页

青空文庫

それから、皆が寝るまで、兄貴が一度も庭へ下りなかったことも分っている」

「じゃ、そのハンカチを細に調べて見たら、何か分るかも知れないね。例えば……」

「それは駄目だ。おれはその時だれにも見せないで、すぐ便所へほうり込んでしまった。何だかけがらわしい様な気がしたものだから。……だが、兄貴を疑う理由はそれだけじゃないんだよ。まだまだ色々な事実があるんだ。兄貴とおれとは、部屋が違うけれど、同じ二階に寝ているのだが、あの晩一時頃には、どういう訳だったかおれは寝床の中で目を覚していて、丁度その時、兄貴が階段を下りて行く音を聞いたのだ。当時は便所へ行ったのだろう位に思って、別段気にとめなかったが、それから階段を上る跫音を聞くまでには大分時間があったから、疑えば疑えないことはない。それと、もう一つ、こんなこともあるんだ。親父の変死が発見された時、兄貴もおれもまだ寝ていたのを、母親と妹のあわただしい呼声に、驚いて飛起きて、大急ぎで下におりたんだが、兄貴は、寝間着をぬいで、着物をはおったまま、帯も締めないで、それを片手につかんで、縁側の方へ走って行った。ところがね、縁側の靴ぬぎ石の上へ、はだしでおりたかと思うと、どういう訳だか、そこへピッタリ立止って了ったんだ、考え様によっては、親父の死骸を見て、余りの事にためらったのかとも