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ぎわく

疑惑

江戸川 乱歩

「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年9月15日、25日、10月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,308 字 · 37 页

青空文庫

「じゃ、そこに斧がのっかっていたとでもいうのか」

「そうだ。正にのっかっていたのだ。非常な偶然だ。が、あり得ないことではない」

「だって、それじゃ偶然の変事という丈けで、別に君の罪でも何でもないではないか」

「ところが、その斧をのせておいたのが、このおれなんだ。そいつを、つい二三日前まで、すっかり忘れてしまっていたのだ。その点が所謂忘却の心理なんだよ。考えて見ると、斧をのせた。というよりも、木の股へおき忘れたのは、もう半年も前のことだ。それ以来、一度も思出したことがない。その後斧の入用が起らないので、自然思出す機会もなかった訳だけれど、それにしても、何かの拍子に思出し相なものだ。又思出してもいい程のある深い印象が残っているはずだ。それをすっかり忘れていたというのは、何か理由がなければならない。

今年の春、松の枯れ枝を切る為に斧やのこぎりを持って、その上へ登った。枝に股がったあぶない仕事なので、不用な時には、斧を木の股へおいては仕事をした。その木の股というのが、丁度例の切石の真上に当るのだ。高さは二階の屋根よりも少し上の所だ。おれは仕事をしながら考えた。