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ふうてんろうじんにっき

瘋癲老人日記

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1961(昭和36)年11月~1962(昭和37)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,490 字 · 196 页

青空文庫

発作に対しては今まで医師からP剤Q剤の服用、酸素吸入、鎮静剤、パパベリンの注射等を受けている。十二月十五日当科(東大内科)A号室に入院。主治医S氏及び若夫人より病気の経過を聞き、軽い診察をする。患者はやゝ肥満し、貧血、黄疸はなく、下腿に軽度の浮腫が見られる。血圧一五〇―――七五、脈搏九〇で速く、整。頸部に静脈怒張を認めず。胸部では両側肺下野に軽い湿性ラッセル音を認め、心臓は肥大せず、大動脈弁口で軽い収縮期性雑音を聴取する。腹部で肝、脾を触れず。右側上下肢に軽い運動障害があると云うが、粗大力減弱はなく、異常反射も証明されない。膝蓋腱反射は両側とも同程度に減弱している。

脳神経領域には異常を認めず、家族はしゃべるほうは普通だと云うが、患者自身は卒中発作以来すこしおかしいと云っている。主治医のS氏から、患者は人より薬に敏感で、常用量の三分の一か二分の一でよく効き、普通量使うと強すぎると注意され、若夫人から、以前静脈注射で痙攣をおこしたことがあるので血管注射はしないようにと云われる。

十六日 晴一時曇

入院して安心した為か昨夜は発作もなく、よく眠れたと云う。朝方になって上胸部に軽い苦悶感が数秒ずつ数回あったと云うが、神経性のものかも知れない。