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ふうてんろうじんにっき

瘋癲老人日記

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1961(昭和36)年11月~1962(昭和37)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,490 字 · 196 页

青空文庫

勝海医師病床日記抜萃

診察後、これは脳溢血の発作ではない、脳血管の痙攣であるから、今どうと云う心配はないと云われる。そして一日二回、朝夕二〇%ブドウ糖二〇cc、ビタミンB1一〇〇ミリ、ビタミンC五〇〇ミリの注射と、就寝前三〇分アダリン二錠ソルベン四分の一錠、投与の指示がある。今後当分約二週間は安静を旨とし、面会謝絶を続けている方がいゝこと、入浴は暫く見合わせ、余程気分のいゝ時を見計らって入浴すること、床を離れるようになっても最初は先ず室内を歩く程度にすること、体の調子を見て天候のうらゝかな日を選びポツ/\庭を散歩するくらいはいゝが、外出は厳禁、出来るだけ精神をぼんやりさせるようにして物事を深く考え込んだり思い詰めたりしないこと、日記をつけることは絶対不可であること、等綿密な注意がある。………………………………………………………………………………………………………………

勝海医師病床日記抜萃

十二月十五日 晴一時濃煙霧後晴

主訴。胸内苦悶の発作。既往歴。三十年来血圧が高く、最高血圧一五〇―――二〇〇、最低血圧七〇―――九五。時として最高二四〇ぐらいに達したこともある。六年前に卒中発作に罹り、以後軽い歩行の障害がある。