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ふうてんろうじんにっき
瘋癲老人日記
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1961(昭和36)年11月~1962(昭和37)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,490 字 · 196 页
便秘をしないように緩下剤の服用をすゝめる。患者もそれに気附いて既にバイエルのイスチチン Istizin をわざ/\ドイツより取り寄せて用いている。患者は長年高血圧や神経痛を患ったので、薬のことは大変よく知っており、うか/\すると新米の医師は負けてしまう。ベッドの囲りにはいろ/\な薬が置いてあり、特に処方を出す必要もなく、その中からP剤Q剤を続けて服用するように云う。又発作のおこった時は、これも患者持参のニトログリセリン錠を舐めるように指示する。患者の枕元に酸素吸入器も具え、直ぐに注射出来るようにして置く。血圧は一四二―――七八、心電図には三日とほゞ同様、ST・Tの異常と、前壁中隔梗塞を疑わせる所見が見られ、胸部レントゲン写真では心臓肥大はあまりなく、動脈硬化像が見られる。血沈促進、白血球増多、S・GOT値の上昇を認めない。以前から前立腺肥大があり、排尿の時に難渋したり、尿が混濁したりすると云うが、今日のは清澄で蛋白もなく、糖が弱陽性である。
十八日 晴後曇
入院以来まだ強い発作は見られない。発作の性状は主として上胸部又は左前胸部の苦悶感で、それも数分以上続くことは稀である。