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ひゃくあしちがい
百足ちがい
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页
のところをどうかひとつ、へい」
又四郎は黙って苅賀の門を出た。
――信じられない。
あれほどの大言壮語、胆力そのもののようなあの豪傑笑い。あれだけの男が果し合を恐れて逃亡する、家財を売りとばし、下僕の眼をさえ忍んで、妻子と共に夜逃げをする。
「――いやいや、おれには信じられない」道を歩きながら独りで又四郎は頭を振った、「――これにはなにかわけがあるのだ、なにか」
だが彼は信じないわけにはいかなかった。苅賀由平二が出奔したということは、忽ち家中一般の評判になり、その原因について根もないような話が次から次へと伝わった。
又四郎はひそかに溜息をついた。
――なんということだ。
溜息をついては浮かない顔をしていた。けれども考えてみるに、これで五年来の懸案はきれいに片がついたわけである。憂鬱になる理由は少しもなかった。そこでようやく肚をきめ、本条町の松家邸へおかね嬢を訪ねたのであった。……松家加久平はまえに亡くなって、今は長男の加久平が家を継ぎ、末席の老職を勤めている。
「やあよくみえられた、どうぞお通り」加久平は自分で玄関まで出迎え、自ら客間へ導き、茶菓を命じ、対坐するまで饒舌り続けた、「こんどはたいそうな出世で、まあ当然のことではあるが、少しは遅すぎるかもしれないが、俗に大器晩成ともいうくらいで、こちらでも内々は