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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
しまのない身のうえをかこつようになったのでござります。もとよりこれも自分が悪事をしでかした罰でござりまして、たれをうらむべきすじもないのでござりますが、いったん死におくれましてはいまさらお跡をしとうたところでおくがたにあわせる顔もござりませぬから、諸人のつまはじきを受けながら生き耻じをさらしておりますうちに、もみりょうじも、琴のおあいても、余人に仰せつけられまして、もうわたくしにはとんと御用がないようになってしまいました。ひめぎみたちはその時分安土のおしろに引きとられていらっしゃいまして、ひでよし公のおことばがござりましたばかりにいや/\ながらわたくしを召しつかっておられましたので、それを知りましてはむりにお慈悲にすがりますこともこゝろぐるしく、もはや辛抱もいたしかねまして、或る日、こっそりと、おいとまごいの御あいさつもいたさずに逃げるようにおしろをぬけて、どこと申すあてもなくさすらい出たのでござります。
さあ、それがわたくしの三十二のとしでござりました。もっともそのおり都へのぼりまして太閤でんかにおめどおりをねがい、ことの次第を申し上げましたら、一生くうにこまらぬほどのお扶持はいたゞけたでござりましょうけれども、このまゝつみのむくいを受けて世にうずもれてしまおうとおもいきわめまして