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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

しかしいずれもずんと大きゅうなられたものだな。むかしそれがしの膝のうえに抱かれていたずらをなされたのは、たしかお茶々どのだったとおもうが」

と、そうおっしゃって御きげんよくおわらいなされるのでござりました。

こういうわけでさいわいわたくしは路頭にもまよわず、ひきつゞき御奉公をいたすことになりましたけれども、じつを申せば、わたくしの一生はもう此のとき、天しょうじゅういちねん卯月二十四日と申すおくがたの御さいごの日におわってしまったのでござりまして、おだにや清洲でくらしましたようなたのしい月日はそのゝちついぞめぐってもまいりませなんだ。それと申しますのは、てんしゅに火をつけ裏ぎり者のてびきをいたしましたことを姫ぎみたちもおきゝなされましたとみえて、しだいにおにくしみがかゝりまして、なんとなくよそ/\しくあそばすようにおなりなされ、とりわけお茶々どのなどは、「この座頭ゆえにおしからぬいのちをたすけられて、おやのかたきの手にわたされた」と、ときにはわたくしへきこえよがしにおっしゃいますので、おそばにつかえておりましても針のむしろにすわるおもいがいたしまして、このくらいならなぜあのおりに死なゝかったかと、たゞもうなさけなく、とりつく