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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
と仰せられましたが、
「いや、姫よりもそなたはなぜしないのだ」と、ながまさ公がきっとなって仰せられるのでした。おくがたはたゞ「はい/\」と口のうちで仰っしゃるばかりで、なか/\承引なされませぬので、
「あれほど申しきかせたことがなぜ分らぬ。この期におよんで云いつけにそむくつもりか」と、つね/″\おくがたにはおやさしいおかたが、ことさらあら/\しく仰っしゃるのでござりますけれども、
「おぼしめしはかたじけのうござりますが」
と、かたくけっしんをあそばして、座を立とうとはなさりませなんだ。そのときながまさ公はだいおんをおあげになって、
「やあ、その方おんなのみちを忘れたか。わがなきあとの菩提をとぶらい、子どものせいじんをみとゞけるこそ、つまたるものゝ勤めではないか。そこの道理がわからぬようではみらいえいごう妻とはおもわぬ、夫とも思ってもらわぬぞ」
と、するどくお叱りになりました。そのおこえがひろまのすみ/″\へりん/\とひゞきわたりましたので、いちどうはっといたしまして、どうなることかといきをころしておりますと、しばらくなんのものおともござりませなんだが、やがてさや/\と畳のうえにお召しものゝすれるけはいがいたしました