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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
ひでよし公の方では、この雪のあいだに柴田がたの大名しゅうを御せいばつなさるおぼしめしとみえ、年があらたまりますとふたゝびたいぐんをもって勢州へ御しんぱつなされまして滝川左近将監どのゝ御りょうぶんを切り潰され、しきりにかっせんのさいちゅうと申すしらせがござりました。さればほっこくも今はしずかでござりますけれども、雪がきえしだいかみがたぜいとの取り合いになるのは必定でござりますので、おしろの中はその御用意にいそがしく、みなさまがそわ/\しておられます。わたくしなどはこんなばあいになんのお役にもたちませぬから、手もちぶさたにしょんぼりといたして炉ばたにすくんでおりましたが、それにつけてもあけくれむねをいためますのは、おくがたのことでござります。あゝ、ほんとうに、このありさまではおち/\殿さまとおものがたりをあそばす暇もないであろう、せっかくおちつかれたのにこのようなことになるのだったら、きよすにいらしった方がよかったかもしれない、どうか味方が勝ってくれゝばよいが、またしてもこのおしろがしゅらのちまたと化して小谷のようなまわりあわせになるのではないかと、そうおもう