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つぶてしんじゅう
礫心中
野村 胡堂
「富士」1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页
水野越前守は、そのだらけ切った江戸の町人に三斗の醋を喰わせたのでした。
「なにさ、御触は御触、骨休めは骨休めだ、御政道にも裏表がある、其処にそれ、宜しくな、日夜御政道の為に御辛労遊ばす御奉行様へ、時偶は陽気なところをお目に掛けて、結ぼれたお心をお慰め申すのが、お上への御奉公と申すものだ、さアさア、私が承知だ、弾いたり、騒いだり」
金座御金改役、後藤三右衛門、禿げ頭を叩いて、鳥居甲斐を取巻いて居ります。
「後藤、ちと賑やか過ぎるぞ、外へ聞えはせぬか」
鳥居甲斐さすがに後ろめ度いのでしょう、脇息に凭れて、左右の美女の大群をニヤリニヤリと見廻し乍ら、こんな事を言って居るのでした。
「飛んでもない、風俗取締係の者が数十人で屋敷を堅めて居ります。――町人共が怪しんだら、狸囃が始まったと言え――と斯う言い付けました。ヘッヘッ」
向島小梅に新築した、後藤三右衛門の別荘落成祝いは、町奉行鳥居甲斐守を正客に、腹心の者を集めて、町芸者数十人を侍らせ、天下御免のドンチャン騒でした。
後藤三右衛門は、先祖代々の御金改め役ですが、わけても当代三右衛門は、頗る商才に長けた男で、鳥居甲斐守と結托して悪質の貨幣を鋳造し、物価を釣り上げて、一代に暴富を積んだしたたか者です。