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つぶてしんじゅう
礫心中
野村 胡堂
「富士」1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页
「門を開けッ」
「一挙に出るのだ」
閂へ手を掛けた者があります。
「待て待て、そんな無法は許さぬぞ、万一町人共を斬って騒を大きくすれば、殿御一身の御迷惑――」
堺藤兵衛大手を拡げて立塞がりましたが、
「何を老ぼれ、退け退け、恥を知らぬか」
「いや退かぬ、万一の事があれば、お家の大事、老中御罷免だけでは済まぬぞ」
必死と絶叫する堺藤兵衛も、多勢の若侍の力には抗しようがありません。
「それッ」
閂を抜くと、門の扉はさっと開きました、が、若侍が飛出す前に、何処から何うして現われたか、主人の水野越前守忠邦、八文字に開いた扉の前に立って、
「ならぬ、――町人共の血を流してはならぬ、鎮まれッ」
凜とした声、炯々たる眼差し、日頃主君を畏敬して居る家中の若侍共は、冷たい水をブッかけられたように、一度に興奮から醒めて頭を垂れました。
「予が直々逢ってつかわす」
水野越前守には、恐れも恥も、やましさもありませんでした。たった一言に家臣を宥めると、振り返って群衆の方へ、その鋼鉄のような冷たい顔を向けたのです。
が、町人共の恐れたのは、今は老中の権威を滑った、失意の越前守一人でなくて、切って出ようとした向う見ずの若侍共でした。