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しゅうさいようしかがみ

秀才養子鑑

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,837 字 · 32 页

青空文庫

「元気な人でしたが、病気には勝てないと見えますな」

「はあ。それに年も年です」

「お幾つになりましたか?」

「六十八ということですが、戸籍の方が二つ間違っているそうですから、本当は七十です」

「そんなになりますかな、もう。ふうむ」

「悉皆弱っています」

「ところで、あなたの用件ですが、前の会社は何うしてお引きになりましたか?」

「別にこれという失策はなかったんですけれど……」

と小室君は覚えず頭を掻いて、行き詰まった。任意の辞職でない。首になったのだから、具合が悪い。

「五年も勤めていたのに惜しいことです。同僚と衝突でもしたんですか?」

「いや/\」

「単に一身上の都合によりと書いてあるが、その辺をハッキリ承わって置かないと、相談が出来ません」

と宗像さんは眼鏡を外して、履歴書に見入っていた。

「実は欠勤が多かったものですから」

「病気でもなすったんですか?」

「いや、自分はこの通り頑健ですが、父が二度目の脳溢血をやった時、一月ばかりついていました。続いて妻の病気の為め一月余り……」

「奥さんは何ういう御病気でしたか?」

「婦人にあり勝ちのヒステリーです」

「成程」

「側についていないと承知しないような状態でしたから、つい会社の方が疎かになりました。