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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

しかし夢窓が彼を庇うはずもない。やがてのこと、内から出て来たところを搦め捕られた。そして十二月二日、壬生の六角で、斬罪に処せられた。

それいぜんに、共犯の二階堂行春のほうは、讃岐へ流されてい、これで院(上皇)を犬と呼んだり矢を射るなどの大不敬を酔興の余にやった武士どもの御車暴行事件はひとまずかたがついたようなものだった。

だが、これらの下剋上を急にし出した原因の一つには、北朝に仕えていた公卿の卑屈ということもある。

伝来の荘園(領地)は細り、宮廷はさびれ、かねもなければ実力も欠いてきたそれいぜんに、自分たちの心からしておちぶれていた。武士におもねる余りにである。――彼らは本来の優雅を捨て、立ち歩きから烏帽子の振りまで武家風をまね、しいて馴れぬ坂東言葉をつかい、いわば「公卿ニモ非ズ、武家ニモ似ヌ」妙なものになってしまった。

そんな時世粧である。庶民の皮肉には、時に秀逸なものがあった。

「オヤ、向うからやって来るのは、蛙かね? 河鹿かね?」

自体、こうまでの風潮とすれば、武士の驕慢は、公卿にも一半の罪があったといえよう。だから権勢第一の師直が病むとでも聞えると、今出川界隈は見舞いの公卿輿や牛車で埋まったという。