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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

天皇御むほん

どんな真相なのやら、それすら片鱗も知ってない母子なのである。

だが、こんな者をも、仮借なく、宮方の何かと見て、容疑者の数に入れねば気がすまぬほど、六波羅配下の彼らも、いまや逆上気味なのかもしれない。

天皇御むほん

現職の六波羅探題は、越後守仲時(北方)と、左将監時益(南方)だった。

いずれも、新任の若手で、またもちろん、北条一族中の歴乎でもある。

五条総門の大路をへだて、探題ノ庁は、南北二郭にわかれていた。ちょうど、江戸時代の制度に、北町奉行と南町奉行があったように。

が。その権力や地位の大は、江戸期の奉行や京都守護などの比ではない、――そして平家いらい、宿命の府六波羅は、百八十年後の今も、いぜん朝廷にとって、一大敵国の観をなしていた。

特に。ここ数日の様相はけわしい。端役人まで、半武装で執務していた。諸門に槍兵を立て、馬寄せには、いつでも出動できる軍兵に、伝令まで付してあった。――もちろん、洛内は戒厳令下にあり、夜は篝屋の火で真っ赤だが、昼は逆に人通りもなく、五月の青葉もむなしく、苦悩の都は、死に瀕していた。

「越後守様は、どちらで?」

書史門、評定所門など、庁内のあちこちを、しきりに尋ね歩いている者がある。