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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
03 みなかみ帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页
とは、偽らぬ常識だった。
これで解る。
さきの後嵯峨のむりな御作為も、御自身、少しでも長く、院政の権栄を、享受していたいためにほかならない。
ひいては、失意久しき後深草が父帝のなきあとはすぐその院政の座を「――いまこそ」と、望んだお気持も解るし、また弟の亀山天皇が「さは、させじ」と兄、後深草の望みを潰滅させた御心理も解らなくはない。
しいて、解らないことを探せば、それはすでに亡き父帝後嵯峨の偏愛の異常さであろう。――死にのぞんで、その後嵯峨は、次のような遺詔(ご遺言)まで残されていたとある。
(……皇位は、今後永久に、亀山天皇の子孫をもって継がせよ。――その代りに、後深草の子孫には、諸国にある百八十所の領地を譲り与えよう。されば以後は、皇位への望みは断て)
これに、ものをいわせて、亀山天皇はまもなく、わが御子を
後宇多天皇
と立て、御自身は、待望の権力を剋ちとった。
ここに哀れをとどめたのは、後深草である。――出家すると言い出された。しかし、後深草に出家されては、生涯浮かばれない側臣がたくさんある。彼らは手をかえ品をかえて、幕府をうごかした。
時の執権は、北条時宗。