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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

「乳は出ぬのか」

「産後の病とかで、嫋々と、物に縋らねば歩けぬような母親なので」

「やっかいな囚人だ。ま、仕方がない。裏の堂守に言って、粥の汁でも母子にくれてやるがいい」

部将は本庄鬼六といって衛門尉、六波羅検断所の一将だった。威張るはずである。

「おい」

と、その顎をまたすぐ、横の兵へ振って。

「この暇に、放免組の一人に、ここへまいれと申せ」

まもなく、放免溜りから、眼の大きな、木菟みたいな顔の男が出て来て、彼の前にうずくまった。

「放免の権三でございますが」

「そちが組の頭か」

「さようで」

「どうしたんだ。おとといから、放免組の手では、いっこう何の実績も挙らんではないか」

「おそれ入ります。何せい、総頭の忍ノ大蔵が、一昨日来、消えてしまいましたので」

「まだ死骸も見えぬのか」

「見当りませぬ」

「ばかなはなしだ。放免の総頭ともある奴が」

「てっきり、船木頼春にたばかられて、天見の辺で、どうかなったものと考えられますので、その頼春を、昨夜から拷問しておりますが、口を開きませぬ」

「彼奴は、ひとかどの侍だ。放免の調べぐらいで、口を開くはずもあるまい。いずれ、六波羅ノ庁の白洲で叩こうわい。