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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

「……何かこれには深いわけが?」と、なかなかこのきは消えなかった。

だが真相は、彼らにわかろうはずもない。白昼、市井の雑閙で行われた兇行の根元は、宮中にあったのだ。知る者は、やんごとなきお人と、三、四の公卿と、犯人しかなかったのである。いやもう一人、治郎左衛門元成という者と。

その元成は、

「次の横死は、わが身の番か」

と、冬日の下にも身をおく尺地すらないような恐怖に、日々追いつめられていた。

また、世間の声を聞いては、

「もし、大判事殺しを、あの時あのまま自分が刺客となって、自分の刃でしていたら」

とも考えた。

その方が、むしろ彼には、おそろしい回顧だった。――たとえ結果では、こんな境遇や恐怖を求めたにせよ、まだこの途を選んだことの方がよかったのだと、思われもする。

生きようとすれば、あがきの爪が、何かはつかむ。

生きる途を、夫婦はついに見つけた。

京も端れの蹴上の下、今熊野の裏に、ちょっと得態のしれない都の中の村がある。

いつも、がちゃがちゃ賑やかな生活の物音の中で、よく働き、よく唄い、また或る晩には、村全体で、老いも若きも子供も、鉦叩き念仏を唱和して、念仏踊りを仲よく踊りぬいている奇妙な仲間なのだった。