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しんのゆうしゅう
秦の憂愁
豊島 与志雄
「文芸」1944(昭和19)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,389 字 · 19 页
こわい毛の長髪、澄んだ深い眼差し、中国人にしては珍らしい秀でた鼻筋……。だが、頬の皮膚になんだか血色のうすい荒みが漂っている。黒い洋服はきっかり体躯についた仕立て方で、襟の折返しの工合か肩の袖付の工合か、それとも淡色の編みネクタイの影響か、へんに伊達好みな気味がある。その頬とのちぐはぐな印象に、星野はなにか冷りとしたものを感じた。
「食事は……。」と秦は尋ねた。
「まだです。別に食いたくもないので、ウイスキーを少しやったところですよ。」
「そう、あなたは洋酒の方でしたね。然し、老酒も少しいかがですか。」
「いや、大好きですよ。」
当りさわりのない挨拶だけが長引いた。久しぶりに逢ったせいばかりでなく、また、張が側に控えてるからばかりでなく、つき込んだ話に持ってゆきにくい気味合いがあった。
星野は室の中を見廻した。あちこちの卓に倚ってる客たちは、たいてい支那服の商人風な年輩者が多かったが、それがいずれも静粛で、おっとりした温顔だった。星野は妙な気がした。これまで接した中国人はたいてい、饒舌で騒々しく、表情が険しかったのだ。
「ここは、いいですね。なんだかなごやかで……。