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しんのゆうしゅう
秦の憂愁
豊島 与志雄
「文芸」1944(昭和19)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,389 字 · 19 页
「剣の道にも通ずる……。」
「そうだ、剣の道にも……。君、詩を書き給え。」
秦は眉根に皺を寄せた。暫くしてから、ぽつりと言った。
「詩を作るより田を作れ、これも東洋精神の一つだ。」
星野はその意を汲みかねて、二つ三つ目叩きをした。
秦はだしぬけに、上海近郊の日本軍経営の農場のことを話しだした。そこには、台湾から来た本島人の青年たちや、附近の農村の娘たちが、数多く働いている。厳格な訓練と規律との中に働いているのだが、今では皆、精気に溢れた朗かな表情をしている。青年たちはその農場を自分等の土地と感じ、もう台湾に帰る気持ちもない。娘たちは農場の仕事を楽しみ、喜んでそこに通勤している。
「彼等の表情を、あなたは見ましたか。」
「いや、知らなかった。」
「それでは、是非一度は見ておいでなさい。」
話がそこでへんに途切れた。なにか言葉に気が乗らなくなった。
その料亭を出て、四辻に来た時、秦はふいに立止った。淡い星影がちらほら浮んでいる夜空を仰いで、そこに佇んでしまったのである。
星野は数歩引き返して、彼を呼んだ。彼は返事もしなかった。星野はその肩を捉えた。彼は棒のようにつっ立ったままだった。