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ちごがふち

稚子ヶ淵

小川 未明

「早稲田學報」1906(明治39)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,097 字 · 8 页

青空文庫

小さき弟の胸には張り裂けんばかりに悲みの充ちて、さも心配らしう姉の顔を眺めている。

「そんなら、また明日彼の池の畔へ来ておくれ! きっと妾が待っていますから、而して楽しく話をしましょうね。」

「じゃ姉さんは明日も、来てくれるなら僕はきっと彼の池の畔へ行って待っていよう。」

「ああ、ほんとうに妾が待っててよ。」

「うんにゃ、僕の方が先に行って待っているんだ。」

「ほほほ可笑しいことね。」

と、さびしげに姉は打笑んだ。

「また明日にしてよ、今日はこれでお帰りよ。」

二郎は首肯たまま、泣く泣く坂を下りて行ってしまう。姉は爪先だてて見送っている。二人は幾度も幾度も見返えりつ、見送りつ、月の光にほんのりと姿は霞むが如く見えずなるまでも……

しかし二郎の両親はいつになく我が子の遅く帰ったのに心配して、種々と二郎に仔細を問うた。始めのうちこそは何とも言わなかったけれど、問い詰められて隠しきれず、つい一部始終を物語ったのである。而してどうか姉を家へ連れて来たいと両親に請願と両親は驚いて、顔の色を変えて、

「二郎や、それは魔物がお前を見込んでいるのだ。もうもう決してその池の畔へ行くことはならんぞ。