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りゅうたんだん

竜潭譚

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页

青空文庫

われは人心地もあらで見られじとのみひたすら手足を縮めつ。さるにてもさきの女のうつくしかりし顔、優かりし眼を忘れず。ここをわれに教えしを、今にして思えばかくれたる児どものありかにあらで、何等か恐しきもののわれを捕えむとするを、ここに潜め、助かるべしとて、導きしにはあらずやなど、はかなきことを考えぬ。しばらくして小提灯の火影あかきが坂下より急ぎのぼりて彼方に走るを見つ。ほどなく引返してわがひそみたる社の前に近づきし時は、一人ならず二人三人連立ちて来りし感あり。

あたかもその立留りし折から、別なる跫音、また坂をのぼりてさきのものと落合いたり。

「おいおい分らないか。」

「ふしぎだな、なんでもこの辺で見たというものがあるんだが。」

とあとよりいいたるはわが家につかいたる下男の声に似たるに、あわや出でむとせしが、恐しきもののさはたばかりて、おびき出すにやあらむと恐しさは一しお増しぬ。

「もう一度念のためだ、田圃の方でも廻って見よう、お前も頼む。」

「それでは。」といいて上下にばらばらと分れて行く。

再び寂としたれば、ソと身うごきして、足をのべ、板めに手をかけて眼ばかりと思う顔少し差出だして、外の方をうかがうに、何ごともあらざりければ、やや落着きたり。