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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
九ツ谺
」
「あいあい。」
と答えて去る。山風颯とおろして、かの白き鳥また翔ちおりつ。黒き盥のうちに乗りて羽づくろいして静まりぬ。
「もう、風邪を引かないように寝させてあげよう、どれそんなら私も。」とて静に雨戸をひきたまいき。
九ツ谺
やがて添臥したまいし、さきに水を浴びたまいし故にや、わが膚おりおり慄然たりしが何の心ものうひしと取縋りまいらせぬ。あとをあとをというに、おさな物語二ツ三ツ聞かせたまいつ。やがて、
「一ツ谺、坊や、二ツ谺といえるかい。」
「二ツ谺。」
「三ツ谺、四ツ谺といって御覧。」
「四ツ谺。」
「五ツ谺。そのあとは。」
「六ツ谺。」
「そうそう七ツ谺。」
「八ツ谺。」
「九ツ谺――ここはね、九ツ谺という処なの。さあもうおとなにして寝るんです。」
背に手をかけ引寄せて、玉のごときその乳房をふくませたまいぬ。露に白き襟、肩のあたり鬢のおくれ毛はらはらとぞみだれたる、かかるさまは、わが姉上とは太く違えり。乳をのまむというを姉上は許したまわず。
ふところをかいさぐれば常に叱りたまうなり。母上みまかりたまいてよりこのかた三年を経つ。乳の味は忘れざりしかど、いまふくめられたるはそれには似ざりき。