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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
けたたましき跫音して鷲掴に襟を掴むものあり。あなやと振返ればわが家の後見せる奈四郎といえる力逞ましき叔父の、凄まじき気色して、
「つままれめ、どこをほッつく。」と喚きざま、引立てたり。また庭に引出して水をやあびせられむかと、泣叫びてふりもぎるに、おさえたる手をゆるべず、
「しっかりしろ。やい。」
とめくるめくばかり背を拍ちて宙につるしながら、走りて家に帰りつ。立騒ぐ召つかいどもを叱りつも細引を持て来さして、しかと両手をゆわえあえず奥まりたる三畳の暗き一室に引立てゆきてそのまま柱に縛めたり。近く寄れ、喰さきなむと思うのみ、歯がみして睨まえたる、眼の色こそ怪しくなりたれ、逆つりたる眦は憑きもののわざよとて、寄りたかりて口々にののしるぞ無念なりける。
おもての方さざめきて、いずくにか行きおれる姉上帰りましつと覚し、襖いくつかぱたぱたと音してハヤここに来たまいつ。叔父は室の外にさえぎり迎えて、
「ま、やっと取返したが、縄を解いてはならんぞ。もう眼が血走っていて、すきがあると駈け出すじゃ。魔どのがそれしょびくでの。」
と戒めたり。いうことよくわが心を得たるよ、しかり、隙だにあらむにはいかでかここにとどまるべき。