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かさおりはんくろう

笠折半九郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,004 字 · 26 页

青空文庫

……彼は自分の執った態度が、いつかのようにとりのぼせたものだということに気付いていた、小次郎に果合いを挑んだときとは原因がまるで違う、しかしその憤激のかたちには同じ苦しさがあった。心の隅には早くも、あのときと同じ悔いが孕んでいた、でも彼にはどうしようもなかった。

酔いが廻るにつれて、いろいろな人の顔や、言葉や、態度が、次ぎ次ぎと眼にうかんで来た。みんな誹謗と嘲笑の相であった。

――こんなことを考えてはいけない。

彼はなんども反省した。胸へこみあげて来る毒々しい妄念を否定するように、烈しく首を振っては酒を呷った。

――己には己の生き方しか出来ない、嗤う者は嗤え、己は自分の正味を投出している。是が笠折半九郎だ。

泥酔した彼は寝た。

翌日はひどく頭が重く、悪酔いをした胸苦しさがいつまでも消えなかった。それで彼は再び酒を命じた。……午近くになって、支配役から出仕を促す使者が来た。半九郎は家士を挨拶に出して、

――所労で臥せっているから、追って本復のうえ登城する。

と答えさせた。

使者は別に深い穿鑿もせず、大切にするようにと云って去った。……半九郎にはそれが空々しい言葉に思われた、そしてそう思ったときから、彼の考え方は新しい方向へ曲がりだした。