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かさおりはんくろう

笠折半九郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,004 字 · 26 页

青空文庫

「もしその働きを賞美したら、これからさき多くの家臣たちが、その防ぎきれぬ火に向かって、もっと危険を冒すことになるだろう。城は焼けても再び建てることは出来る、だが死んだ人間を呼返す法はないぞ。……心のなかでは褒めながら、そうしなかった理由はそこだ、予にとっては城よりも宝物よりも、家臣の方が大切なのだ。角櫓一つ助かるよりもその方の無事であることの方が予にはうれしいのだ、半九郎」

半九郎の背が見えるほど波を打ち、砂を噛むように歔欷の音がもれた。

「二十年も側近く仕えながら、その方にはこれだけの気持すら察しがつかぬのか、周りの批判は聞き咎めても、予の心を察する気にはならぬのか」

「……申訳ござりませぬ」

半九郎は身を絞るように呻いた。

「それほどの思召とも存ぜず、愚な執着に眼が昏んで居りました、このうえは唯……御免」

云いながら、ツと脇差へ手をかけた、しかし咄嗟に頼宣がその利腕をがっしと掴んだ。

「馬鹿者が! なにをする」

「お慈悲でございます、わたくしに腹を」

「ならん!」

頼宣は有名な強力である、半九郎の懸命の腕を押えつけ、脇差を鞘ごと脱ってすっくと立った。

「死なして宜いなら予が手打ちにして居る、その方がいますべきことは切腹ではない、小次郎との仲直りだ。