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かさおりはんくろう

笠折半九郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,004 字 · 26 页

青空文庫

「小次郎、かたじけない」

半九郎はひと言、呻くように云うと、友の差出した包を取ってひらいた、夢中だった、踏込み袴、定紋付きの胸当、羽折、兜頭巾、それに腰差し提燈まで揃っている、彼はそれを身に着けながら、

――やはり友達だった。

となんども胸いっぱいに叫んだ。

弥五兵衛が提燈に火を入れるのを、ひったくるようにして外へ出た、表には馬が二頭繋いであった、二人は轡を並べて駆けだした。……往還へ出るとはじめて烈風を感じた。半九郎は空を焦がすような遠い火を睨んで、容赦もなく馬に鞭を呉れながら疾駆した。心は湯のような感動でいっぱいだった、宵のうちの悔恨はもう無かった。男同志の友情の有難さが、ただそれだけが、彼の全身の血をかきたてた。

大番町へ入ったところで二人は馬首を分った、半九郎は西丸口へ、小次郎は大手へ。

「小次郎!」

別れるとき半九郎が叫んだ、

「忘れぬぞ!」

小次郎は振返った。にっと僅に笑った白い顔が、半九郎の眼に鮮やかな印象を焼きつけた。彼はそのまま馬を煽って行った。

明暦元年十一月十九日早朝四時、和歌山城西丸御門の外にある都築瀬兵衛の屋敷から出た火は、おりからの烈風にみるみる燃え拡がり、一方は武家屋敷から町家の方へ延び、一方は西丸の門から城へと移った。