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そこつひょうばんき
粗忽評判記
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页
「会ったのか、会ってしまったのか」
「明日の茶の催しに御招待申上げてしまいました、粗忽でございます」
久之進は平伏しながら叫んだ、「お詫びの申上げようもございません、どうぞ切腹仰付けくださいますよう、しかし、生前に一言お願いがございます」
「…………」
「明日は出雲守様とお二人にて、御茶席の催しを遊ばしまするよう、すれば久之進の粗忽も救われ、せっかくお悦びの出雲守様も御失望なさらず」
「待て、……出雲が悦んだと云うか」
「明日を楽しみにすると仰せられました、またその節は土産を持参するとまで、御悦びのごようすでございました」
明敬は黙って眼を閉じたが、やがて呻るように、「――切腹には及ばんぞ」と云った、
「きさまの粗忽は病だ、病を咎めるわけにはゆかぬだろう、ただしこれ一度に限る、この次には許さぬから覚えておけ」
「では御茶のお招きも……」
「しようがない、残念だが催してやる」
「はっ、かたじけのう」平伏する久之進をいまいましげに睨みながら、明敬は跫音もあらあらしく奥へ入っていった。
その翌日である。出雲守来邸と聞いて、しぶしぶ迎えに出た明敬は、いきなり両手を信継の温い手で握られて呆気にとられた。