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うつくしいむら

美しい村

堀 辰雄

序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页

青空文庫

「へえ、そんな人騒がせなこともときどきやりますが、あれあどうも少し狂言らしいんで……」

「そうなのかい? ――どうしてまたそんな……」

私はふと口ごもりながら、あの林のなかの空地にあった異様な恰好をした氷倉だの、その裏の方でした得体の知れない叫び声だのを思い浮べた。そうしてそれ等のものを今だにこんなにも異常に私に感じさせている、峠の子供たちの不思議な領分の上を思った。――子供たちよ、よし大人たちにはそういう狂行が贋ものに見えようとも、お前たちは、そんな大人たちには鎖されている、お前たちだけのその領分の中で遊べるだけ遊んでいるがいい。

爺やとの話は、私の展開さすべく悩んでいた物語のもう一人の人物の上にも思いがけない光を投げた。それはあの四十年近くもこの村に住んでいるレエノルズ博士が村中の者からずっと憎まれ通しであると言うことだった。或る年の冬、その老医師の自宅が留守中に火事を起したことや、しかし村の者は誰一人それを消し止めようとはしなかったことや、そのために老医師が二十数年もかかって研究して書いていた論文がすっかり灰燼に帰したことなどを話した、爺やの話の様子では、どうも村の者が放火したらしくも見える。