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せいにょにんぞう
聖女人像
豊島 与志雄
「群像」1947(昭和22)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页
それでも彼は唖者ではない。甲高い声で早口で、家人たちに口を利いてることがある。家人以外の者には殆んど口を利かないだけのことだ。いくらか低能だとの噂だが、私にはむしろ狂人に近く見える。
この保倉の息子は、いつも私の神経にさわり、私の孤独圏の安定を脅かすのだ。気にするほどのものではないと知りつつも、縁側近くをうろつかれると、何かを探偵されてるようで、不気味だ。夜分にその姿を見かけることはないが、然し時折、闇の中に、彼の気配を錯覚することがある。
「なんとか、こちらへ来ないようにして貰いたいもんだね。」と私は婆やに言う。
婆やは澄ましたものだ。
「あの子は馬鹿でございますよ。馬鹿ですから、閉じ籠めておくことも出来ませんのでしょう。」
その馬鹿が、薪を割ったり、お釜の下を燃やしたり、ちょっとした使い走りをしたりして、家の者にはいくらか役に立っているらしい。
私は時々ばかばかしくなる。彼から嘲笑されてるような気にもなる。然しそんな下らないことが、下らないことであるだけに却って、私の神経にさわるのだ。それでも我慢しているより外はない。もし怒鳴りつけでもしたら、私は一層惨めになるだろう。